ニュースの概要
治験受託大手のParexelは、10月15日から18日まで米国フロリダ州オーランドで開かれるSCRS Global Site Solutions Summitで、施設の立ち上げ、施設との連携、被験者登録を主な議題に据えると発表した。同社は、治験を実際に行う医療機関(サイト)と、その運営を支えるCROが、技術の進歩や治験の進め方の変化に合わせて、先を見据えた協力関係を築く必要があると訴えている。発表では、同社と提携関係にあるアライアンス施設の取り組みにも触れており、提携していない施設との違いが論点になるとみられる。つまり今回の話題は新薬そのものではなく、治験の現場をどう回すかという運営の問題である。
引用元: Parexel、SCRS会議でサイト・CRO連携と被験者登録強化を議論へ(Parexel)
分析・見解
薬の良し悪しより先に、治験の運営力が問われる
治験の遅れは、薬の科学的な難しさだけで起きるわけではない。施設の立ち上げに手間取る、契約や倫理審査の手続きが長引く、肝心の被験者が集まらない。こうした運営面の停滞が、実は大きな原因になっている。業界ではよく、登録目標に届かない施設が相当な割合を占め、一人も登録できない施設もあると言われる。正確な割合には幅があるものの、現場の実感には近い。
今回Parexelが議題に挙げた立ち上げ、連携、登録の三つは、この停滞が起きる順番そのままに並んでいる。課題を上流から順に押さえようとする姿勢がうかがえる。
提携施設と非提携施設の差は何を意味するか
発表によれば、同社のアライアンス施設では、提携していない施設と比べて違いが見られるという。詳しい数字は要約からは読み取れないが、方向性は理解しやすい。提携施設は、契約のひな形、使うシステム、担当者の顔ぶれがある程度固定される。そのため、試験のたびにゼロから説明する手間が減る。工場でいえば、長年付き合う部品メーカーと同じで、確認作業が減り、品質のばらつきも小さくなる。
ただし注意点もある。提携の効果と、もともと実力のある施設が提携先に選ばれた効果は、区別しにくい。比較結果を読むときは、この選別の影響を割り引いて考える必要がある。
新しい技術が施設の負担を増やすという逆説
遠隔でのモニタリング、電子同意、身につける測定機器など、治験で使う技術は増え続けている。CROから見れば効率化だが、施設の側では、試験ごとに使うシステムが違い、研修やログイン管理が増える。一人のスタッフが複数の試験で十数個のIDを使い分ける光景も珍しくない。技術が増えるほど施設の負担が増え、結果として登録が遅れるという逆説が起こりうる。
SCRSが治験施設側の団体であることを考えると、今回の会議は、CROが技術を一方的に押しつける場ではなく、施設の使いやすさを前提に設計を見直す場になる可能性がある。
登録数を左右するのは、探す力より辞退を減らす力
被験者登録というと、患者をどう見つけるかに目が向きがちである。しかし現場では、見つかった候補者が、来院の負担や説明の難しさを理由に辞退する場面も多い。施設とCROの連携の質は、候補者を探す力よりも、辞退を減らす力として表れる。来院回数、交通費の精算、同意説明の分かりやすさといった細部が、最終的な登録数を決める。今後は、連携の評価指標を、立ち上げまでの日数だけでなく、候補者の脱落率にまで広げる流れが強まるだろう。
ビジネスへの影響
製薬企業は委託先に、施設ネットワークの実績を尋ねたい
CROを選ぶ際、価格や過去の試験数だけで比べるのは不十分になってきた。確認したいのは、施設選定から最初の被験者登録までの日数、登録がゼロだった施設の割合、施設が試験ごとに使うシステムの数である。これらは契約前に数字で出してもらえる。答えが曖昧なら、運営力は見えていないと考えてよい。
また、提携施設に偏りすぎると、地域や患者層が偏る恐れもある。速さと対象者の幅広さを両立できるかも、あわせて確認したい。
医療機関は自施設の数字を持つことが交渉力になる
治験を受ける医療機関にとっても、今回の動きは追い風になりうる。自施設の立ち上げ日数、登録率、辞退率を記録しておけば、CROや製薬企業との交渉で、客観的な材料として使える。あわせて、専任のコーディネーターを確保する、立ち上げの手順書を標準化する、使うシステムの重複を整理するといった準備も効果が大きい。
小規模企業ほど、現場の声を設計に取り込むべき
開発資金に限りのある小規模なバイオ企業は、運営をCROに任せきりにしがちである。しかし登録の遅れは、開発費と時間を最も圧迫する。計画段階で施設の担当者に来院負担や同意説明の流れを聞いておくだけで、後の手戻りは大きく減る。国内で海外試験に参加する施設でも事情は同じで、今回の議論は日本の現場にもそのまま当てはまる。
